最期にもう一度会わせてほしい――その願いに寄り添った日

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最愛の人との、最後の時間

「父が亡くなりました。今日が葬儀です。母に…会わせてあげたいんです」

朝方、一本の電話が鳴りました。
ご連絡くださったのは、お父さまを亡くされたご家族。
その日、急きょ予定を調整し、施設にご入所中のお母さまを迎えにあがりました。

葬儀の開始まであとわずか――
「最期に会わせてあげたい」
その一心で、福祉タクシーとしてできる限りの準備を整え、出発しました。


記憶の中の“彼”は、誰だったのか

葬儀場に到着し、まず目に入ったのは立て看板。
そこにはお母さまご自身の姓である「〇〇様」と書かれていました。
その名前を見ても、祭壇に飾られたご主人の遺影を見ても、お母さまは不思議そうに言いました。

「誰なの?知らない人だよ」

――けれど、ご主人の棺の中のお顔を見ると、
「え…そうなの?信じられないよ」と、
まるで心の奥底に封じられていた記憶がふと揺れ動いたように、声が震えました。


立ち上がる力――揺れる足で、棺に触れて

普段は車椅子から立ち上がることも難しく、移動の際は全て介助が必要なお母さま。
しかしその日は違いました。
棺の縁にそっと手を添え、震える足で立ち上がり、まっすぐご主人の顔を見つめました。

何度も何度も、その頬を撫でながら、涙をこぼしながら、言葉をつぶやかれていました。

「病気だったの? 最後は間に合ったの?」
「私にはもったいないくらい、良い男だったよ」

その姿は、言葉では表現しきれない“愛”と“時間”の重なりそのものでした。
そばでその瞬間を静かに見守りながら、
福祉タクシーとしての役割を超えた“何か”に立ち会っているのだと感じていました。


涙と再会の中で、少しずつほぐれていく心

その日、遠方の横浜から駆けつけたご親族の姿もありました。
久しぶりに会うお孫さんたちと再会したお母さまの表情は、徐々にやわらかくなり、
涙を浮かべながらも、優しくその手を握り、愛おしむように語りかけていらっしゃいました。

「こんなに大きくなったのね」
「また会えてうれしいよ」

葬儀という悲しみの中にありながらも、その場にはたしかに“ぬくもり”と“つながり”がありました。


人生の節目に、そっと寄り添う存在でありたい

福祉タクシーむすびは、移動を通じて「想い」を運ぶサービスです。
今日のように、人生における最も大切な瞬間――
“別れ”という時間に立ち会わせていただけることは、大きな使命であり、重みを感じる場面でもあります。

単に送り迎えをするのではなく、
その方の「大切な時間」をどう支えられるか。
その問いを胸に、これからもひとつひとつの出会いを大切にしていきたいと思います。


最後に

人は、最期の瞬間をどう迎えるか、そして誰と過ごすかで、その人生が変わるといいます。
もし、「会わせてあげたい」「行かせてあげたい」そう願う気持ちがあるなら、
全力でその想いに応えたいと考えています。

「行けるとは思っていなかった」
そんな場所へ、一緒に行けるように。

“あのときお願いして良かった”と思っていただけるような福祉タクシーであるために、これからも心を込めて走り続けます。

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