「冷蔵庫の中の掃除をお願いできませんか?」というご依頼をいただきました。
ご依頼主は、網膜色素変性症という視覚障害をお持ちの方。
長年一人暮らしをされており、必要な生活用品の買い物や料理も、できる範囲でご自身で行われています。
ですが、視覚障害が進行する中で、どうしても冷蔵庫の中の管理が難しくなってきたとのこと。
「腐っていても分からない」「調味料もどこにあるか分からない」というようなご様子でした。
■ 冷蔵庫の中に残されていた、“過去の時間”
早速、ご自宅に訪問し、冷蔵庫を開けてみると――
そこには賞味期限が3年以上前に切れた調味料や、変色してしまった野菜、表面に白カビが浮いた食材などが所狭しと並んでいました。
それは決して「だらしない」からではありません。「見えない」からこそ、仕方なく放置せざるを得なかった痕跡だと思います。
一つずつご本人に確認しながら、「これはしょうゆの瓶ですね。手に取ってみますか?」「こちらのタッパー、中身が少し傷んでいます」などとお伝えし、確認を取りながら処分していきました。
勝手に要らないものと判断し、捨ててはいけないと思っています。
どんな状態でも、生活の一部であり、大切な“記憶のかけら”かもしれないからです。
■ 手のひらで記憶する“生活の地図”
掃除が終わると、今日買い物された食材を、一緒に冷蔵庫へ入れていきました。
「これは何?」
「それはヨーグルトです。丸いカップに入っていて…」
「どこに入れると分かりやすいかしらね?」
こんなやりとりをしながら、一つひとつ手渡しし、ご本人の手で冷蔵庫に入れていただきました。
例えば、冷凍食品は左下の段、卵は右上の扉側ポケット。
ご本人が「自分で入れた場所」は、見えなくても“感覚と記憶”で認識できるようです。
「誰かが勝手に入れてしまうと、もう何がどこにあるか全然分からないんです」と話される言葉には、深い切実さが込められていました。
視覚に頼らない暮らしでは、「手のひらが記憶する生活の地図」こそが、自立を支える大切な鍵なのだと強く感じました。
■ 暮らしの困りごとと福祉タクシーの橋渡し
掃除のあと、福祉タクシーのサービスについてご案内しました。
「これからも買い物や病院に行くのが不安で…」とおっしゃるご本人に、
- ドアtoドアでの送迎(杖や白杖を持っていても安心)
- スーパーや薬局、病院内の付き添い
- お薬や食品の買い物代行
- 自宅内の家具移動や整理整頓 など
その方の生活に合わせたサポートが可能なことをお伝えしました。
視覚障害があるから外出をあきらめるのではなく、
「ちょっと頼んでみようかな」と思っていただける存在でありたい。
そう思って日々の支援に取り組んでまいります。